ARP

TUTORIAL: VCO

2015.07.24

ARP ODYSSEYの各パラメーターとその活用方法について、当時の歴史を交えつつ解説します。今回は「VCO」についてです。
文:林田涼太(Iroha Studio)

VCO1          

VCO1

ARP ODYSSEYにはVCOが2つ搭載されています。2つは若干の違いがあるもののほぼ同じ仕様になっていますが、鍵盤を2つ同時に押したときにそのピッチを2つのVCOに個別に送って和音を奏でる「デュオフォニック」仕様になっています。

デュオフォニックに類似した機能は80年代の名機KORG Mono/Polyなどにも採用されていますが、実現できている機種はごく一部で、ARP ODYSSEYの場合は擬似的な2音のポリ・シンセとして機能します。機能上、余韻の残し方などに制限はありますが、2つのVCOのピッチを同じにしておけば狙った和音で演奏できます。

ARP ODYSSEYのVCOのピッチは20Hz〜2kHzまでの可変式になっています。極めて大胆で振れ幅が大きく自由な動きをしますので、まずは“COARSE”で大まかなピッチを決定し、“FINE”で細かいピッチ調整をします。正しいチューニングを得るためには別途チューナーを用意するといいでしょう。オクターブの切り替えスイッチによってピッチを変える方式のVCOのほうが一般的とはいえますが、可変式にしかできないサウンドもたくさんあります。あえてARP Odysseyが可変式を採用しているのは同社の伝統的なポリシーによるものといえるかもしれません(実際初期のモデルはほとんどが可変式のピッチを採用していました)。

AUDIOスイッチは、通常のVCOの動きをするKYBD ONと、周波数を下げてVCO1をLFO(後述)として使うKYBD OFFの切り替えを行います。LFOとして使われた場合は当然ながらキーボードの動きには追従されません。VCOをLFOとして使う、ということの意味が分からなく思われるかもしれませんが、VCOとLFOは出ている周波数が違うだけで構造は同じと言えます。VCO1をLFOにしてしまった場合、VCO2だけの1オシレーターになってしまいますが、2LFOになるため複雑なモジュレーション(=変調)がかけられます。

VCO1_2          

下段のスライダー群は基本的にVCOに対してモジュレーションをかけるソースとそのかかり具合を調整するためのものです。

FMと書かれている2つのスライダーはピッチをモジュレートするためのものです。FMとはフリーケンシー・モジュレーション(=周波数変調)を指しています。2通りの波形のLFOとS/H(サンプル・アンド・ホールド)かADSR(エンベロープ・ジェネレーター)をソースとして使えます。LFOをソースにした場合はビブラート効果が得られ、S/Hにした時はランダムなピッチの変化などを作ることができます(これはS/Hの設定次第でいろいろ考えられます)。ADSRは電子ドラムのような音を作るときによく使われます。パーカッション系の音を作るならADSRでピッチのモジュレーションを試してみてください。

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その横の2つはパルス波の幅に対してかけるモジュレーションです。 パルス波の話をする前に、ARP ODYSSEYが持っている2つの波形についてご紹介しておきます。2つのVCOからはそれぞれ「ノコギリ波」と「パルス波」という2つの波形が出力されています。作りたいサウンドによってこのどちらかを選択する仕組みになっています。この2つの波形はアナログ・シンセサイザーでは代表的なもので、倍音の含み方に決定的な違いがあります。ノコギリ波はオシロスコープで見るとノコギリの刃のような形をしているのでそう呼ばれていますが、その音のピッチを決定する「基音」に対して偶数倍の周波数の倍音が含まれています。これは多くの楽器に含まれている倍音の構成と類似点が多いため、標準的な波形として使用されることが多いのですが、サウンド的にもクセがなく使いやすい音色です。

一方パルス波はオシロスコープで見ると四角いカクカクした波形になっています。奇数倍の倍音を含みますが、現実の楽器で言えばクラリネットなどが持っている倍音と共通点があります。

パルス波はノコギリ波と違ってその波形の形から周期的な揺れの幅に「上側」と「下側」のラインが存在します。その上下の幅を調整することで倍音の含まれ方が大きく変わり、音色の変化が生まれます。“WIDTH”はそのパルス幅をマニュアルで調整するためのもので、スライダーが一番下に下がった状態ではパルス波の幅は上下が50%/50%になり、最も太い音になります。スライダーを上げていくとパーセンテージが不平衡なものになり、音としてはシャープなイメージになっていきます。

また“MOD”はLFOかADSRをソースとしてパルス幅をモジュレートします。LFOでバルス幅を動かすモジュレーションが一般的によく使われるテクニックで、どういうわけか1つのVCOでも複数のVCOが出ているかのような厚みが生まれ、独特の揺れ感のあるクラシックなアナログ・シンセサイザーのサウンドになります。

特にARP ODYSSEYが持っているパルス波は非常にユニークなサウンドをしていて、いい意味でパルス波らしからぬ音をしています。重低音部分はモダンなアナログ・シンセサイザーほど強調はしておらず、その代わりにもう少し上の部分の周波数の重厚感がしっかり表現されているのでアンサンブルの中に入った時の押し出しが半端ではありません。どうしてそう聞こえるのかは理屈では説明できない要素が多すぎるのですが、当時からの熱心なARP Odysseyファンはこのパルス波に魅了されてきたのも確かです。また一つのVCOをノコギリ波にして、もう片方をパルス波にして混ぜるというテクニックも多用されています。ノコギリ波の倍音の多さも特筆ものですが、パルス波よりもよりシャープな印象を受けるかもしれません。このあたりは理屈よりも耳で聞いてどちらにするか判断するべきでしょう。

VCO2

VCO2

VCO2はVCO1とほぼ変わりませんが、唯一違うのがSYNCスイッチです。これはオシレーター・シンクといって、VCO2のピッチを強制的にVCO1に合わせるためのものです。これをONにするとVCO2はVCO1の倍音として機能するようになりますが、そこであえてVCO2のピッチをずらすことによって非常に過激でブライトな音を作ることができます。強いて文字で表現するなら「ギュイーン」です!オシレーター・シンク機能自体を搭載している機種は2VCOタイプのシンセサイザーにしばしば見受けられますが、中でも当時からARP Odysseyは効きがハードなことで定評がありました。かっこいいオシレーター・シンクといえばARP Odysseyを連想するくらいのまさに「お家芸」でもあったわけです。

よく使われるテクニックは、オシレーター・シンクをONにした状態でVCO2にADSRでFMのモジュレーションをかける方法です。VCO2の“COARSE”の位置はオシレーター・シンクが入っている状態ではチューナーを使う必要はありません。VCO2はあくまで倍音として機能するので自由に動かしてください。コツとしてはモジュレーションをかけた時にVCO1よりも高めのピッチになっていること。そのほうがよりギラギラした効果が期待できます。ADSRは低めのサスティンと長めのディケイにセットします。このサウンドを耳にした時、他社のライバル機とは違う全く独自の路線を突っ走っていたARP Odysseyのオリジナリティがどういうものだったか、身をもって体感することがきると思います。設定によってはまるで人間の声のような表現力を持ったサウンドが生まれ、生き物のように振る舞います。

また別のテクニックとして、前述のデュオフォニック機能を利用して、あえてオシレーター・シンクをかけた状態で和音で演奏する方法も試してください。摩訶不思議な世界観が飛び出してくると思います。