ARP

TUTORIAL: VCF / VCA

2015.07.29

ARP ODYSSEYの各パラメーターとその活用方法について、当時の歴史を交えつつ解説します。今回は「VCF」「VCA」についてです。
文:林田涼太(Iroha Studio)

AUDIO MIXER

AUDIO MIXER

2つのVCOとノイズ・ジェネレーターはまとめて内蔵のオーディオ・ミキサーに入ります。VCOが出力する2つの波形(ノコギリ波とパルス波)の選択もここで行う仕組みになっています。また2つのVCOは同時にRING MOD(リング・モジュレーター)にも送られており、それとノイズのどちらかを選択してミキサーに送ることができます。
RING MODは2つのVCOのピッチの和と差のピッチを生み出すモジュールで、金属的な音色を生み出す時に使います。2つのピッチが完全に一致していると基本的に効果はありませんが、故意にずらしていくと面白い倍音が生まれてきます。そしてこれをピッチを強制的に一致させるオシレーター・シンクと同時併用することでさらに存在感のある倍音を作り出すことができます。

VCF

VCF

AUDIO MIXERを出た音源はVCF、つまりフィルターに入ります(ここでは高い周波数から倍音を削っていくローパス・フィルター)。オリジナルのARP Odysseyは製造された時期によってローパス・フィルターに3種類のバージョンがあることがよく知られていますがその3つが“VCF TYPE”スイッチで切り替えられるように改良されています。

まずⅠは初期モデル(Rev1)に搭載されていて“4023”と呼ばれていたフィルター・モジュールで、-12dB/OCTの2ポール、つまり周波数が倍になるにつれて12dBカットするカーブを描くローパス・フィルターです。-12dB/OCTは比較的緩やかな特性と、教科書どおりの回路ではなく多重帰還のかかった独自のフィルターで、VCF FREQ(カットオフ)を閉じていっても倍音が残りやすく、抜けのいい高域が特徴です。結果としてレゾナンスを上げずにフィルターをオープンしてもエキサイターをかけたように超高域が強調されます。レゾナンスを上げた場合の挙動も違い、全体のレベルも上がり結果として歪みます。この歪みは他のシンセでは得られない複雑で深みのある音です。ピンク・ノイズを入力してフィルターを発振させ、VCF FREQを下げるとその効果が分かります。低域の伸びもよく、ARP Odysseyを世に知らしめるきっかけを作った名フィルターです。多くのシチュエーションで「このフィルターは使える!」と感じることができると思いますが、それはVCOの原音が持つニュアンスを伸びやかに処理するオーディオ特性が優れているからでしょう。

Ⅱは中期モデル(Rev2)に搭載されていた、-24dB/OCTの4ポール・ローパス・フィルターです。通称“4035”。 Ⅰからほどなくしてこのタイプのフィルターに仕様が変更されました(世間的には4ポール・タイプが主流になりつつあった時代でした)。いわゆるラダー・タイプのフィルターでキレが良く、Ⅰと同様のウォームで上品なレゾナンスのフィーリングを持っていますが、搭載されている個体数が極めて少なかったレアなフィルターです。4ポールになったぶん、アグレッシブなフィーリングが強くなりましたが、それでも十分な太さがありバランスのとれた音楽的なキャラクターです。

すでにいくつか話に出ましたが、VCFに対してもコンパクトなシンセサイザーでは珍しいくらい様々なモジュレーションがかけられます。

ⅢはⅡと同じ-24dB/OCTの4ポール・フィルターですが回路の構成の違いからキャラクターががらりと変わり、よりソリッドでシャープな印象を与えるローパス・フィルターです。レゾナンスを上げても“暴れ”を抑えるような動作をしますが、レゾナンスの効きそのものはアグレッシブです。

3種類のフィルターはどれもVCF RESONANCEのスライダーをトップまで上げきると発振させることができますので、それを積極的に音作りに利用するといいでしょう。発振すれすれの「寸止め」ポジションもなかなかのトリッキーぶりで、“SELF OSC”とわざわざ書かれているのがしゃれています。フィルターの発振音だけを使う場合はAUDIO MIXERのスライダーを全部下げてVCOからの音をカットする必要があります。VCFの発振音は倍音を含まない純粋なサイン波ですが、この応用としてポピュラーなのは「チュン!」というテクノなどでよく使われるパーカッシブなサウンドです。作りは簡単で、VCFとVCAにADSRをアサインします。ADSRはディケイ以外を全て0にし、ディケイの長さだけで音を作ります。VCFにはかなり強めにかけるといいでしょう。サウンドのピッチ感はこのVCFに対するADSRの強さとVCF FREQの位置で決定しますのでうまく調整してください。

VCF_2

すでにいくつか話に出ましたが、VCFに対してもコンパクトなシンセサイザーでは珍しいくらい様々なモジュレーションがかけられます。

KYBD CVは、キーボードから出るCV信号をフィルターのVCF FREQの開閉に使うというものです。音程が高くなるほどフィルターが開いて音がブライトになるという効果を狙うときによく使われます。シンセ・ベースなどの音ではオクターブが低くなると高い倍音が気になり、そこでフィルターを閉じると逆に高いオクターブ側でこもって聞こえるということがしばしばおきますが、そういう時にこのスライダーは有効です。この効果を得るためにはフィルターをある程度閉じておくことが必要です。それをキーボードから出るCVによって開かせるというイメージですので完全に開ききったフィルターには効果は現れません。また外部MIDIから演奏させた場合でも有効です。加えてARP OdysseyのフィルターにはVCOと同様、温度保障回路が付いています。発売当時から音程の安定性には定評があり、VCFを発振させKYBD CVを上げきれば鍵盤どおりの音程で演奏が可能になります。

S/H MIXER OR PEDALはARP Odyssey一番の特徴と言ってもいいもので、ミキシングした信号でVCO,VCFにモジュレーションをかけることで他のシンセでは得られない音を出すことを可能にしています。ペダルにプラグがささっている場合はその信号が、ささっていない場合はS/H MIXERから出た音がソースとなります。S/H MIXERにまとめられたVCOはフィルターを通っていない生のVCOの音ですから非常にブライトです。このオーディオ信号によってフィルターをモジュレートするテクニックは設定によってより豊かな倍音が得られることがあるので積極的に使われています。RING MOD, VCO1, VCO2, S/H MIXERの4つのスライダーを「全上げ」の状態でオシレーター・シンクをかけた音色は非常にアグレッシブで存在感のある音になります。

ADSRとARはエンベロープ・ジェネレーターをVCF FREQの開閉に使います。VCFのモジュレーション・ソースとしてもっともポピュラーなものです。

HPF

HPF

これはハイパス・フィルターです。サウンドの低域を削るという行為は太い音を求めている方にはもったいないイメージがあるかもしれませんが、シンセサイザーのスペシャリストになればなるほどこれを多用するものです。LPFの前にHPFを搭載している機種が多い中で、あえてLPFのあとにHPFを持ってきているARP ODYSSEYの構成はとてもユニークなものといえます。

VCA

VCA

DRIVEスイッチは、VCAで歪みを作る機能で、オリジナルのARP Odysseyにはなかったパラメーターです。太く自然なオーバードライブ感を作り出します。これより多彩な音作りを可能にしてくれ、モダンなシンセサイザー・サウンドも作りやすくなっています。

VCA_2

AR / ADSRは後述のエンベロープ・ジェネレーターのVCAに対する感度を調整するもので、事実上ARP ODYSSEYのマスター・ボリュームとして機能します。

通常、VCAはエンベロープ・ジェネレーターで動かすというのが基本になっているため、VCAにはなんのパラメーターもない、という機種さえよくあります。そのため目に見えるエンベロープ・ジェネレーターとVCAを混同している方も多いかと思いますが、これはまったく別物です。VCAはあくまでボルテージで動作するオーディオ・アンプで、それをエンベロープ・ジェネレーターで動かしているにすぎないというところがポイントになります。そしてそのエンベロープ・ジェネレーターの送りの強さが結果的にVCAの出力ボリュームを決めているということがいえます。

VCA

VCA GAINスライダーはエンベロープを抜きにしてオーディオ信号がVCAに流れる量を調整します。早い話、このスライダーが上がっていると音が止まらなくなります。ホールド・スイッチのように使うこともできますので、ドローンなサウンドを作るときや、ライブ・パフォーマンスでの長尺ソロパートの途中で、シンセから手を離してオーディエンスを煽りに行く時などにこのスライダーを上げた状態にすると音が鳴りっぱなしになってかっこいい時もあります!