ARP

TUTORIAL: EG

2015.07.31

ARP ODYSSEYの各パラメーターとその活用方法について、当時の歴史を交えつつ解説します。今回は「ENVELOPE GENERATOR」についてです。
文:林田涼太(Iroha Studio)

AR / ADSR

AR / ADSR

エンベロープ・ジェネレーターは鍵盤のトリガーに合わせて動作するコントロール信号を生み出します。A=アタック、D=ディケイ、S=サスティン、R=リリースの4つのパラメーターから構成された、いわゆる“ADSR”タイプと呼ばれるエンベロープ・ジェネレーターが一般的ですが、ARP OdysseyではひとつがADSR、もう一つがARタイプとなっています。

ARタイプはADSRの“S”、つまりサスティン・レベルをMAXに固定したエンベロープ・カーブを生み出します。

ここでエンベロープについてビギナーの方向けに簡単な説明をしたいと思います。エンベロープは鍵盤を「押した瞬間」と「離した瞬間」をきっかけとしてVCO, VCF, VCAなどをモジュレートするための信号を作り出します。最も代表的なのはVCAに対して使うことで音量の変化を作り出すことです。エンベロープのない状態でのシンセサイザーは鍵盤を押した瞬間に突然音が出て、離した瞬間にブツッと音が切れます。これでは味気ないということで、実際の楽器などによくある物理特性、例えばピアノのように鍵盤を押した瞬間にカツッという鋭い立ち上がりがあり、鍵盤を押している間は時間をかけてゆっくりと減衰していく、そして鍵盤から手を離すとわずかに余韻を残して消えていくわけです。こういう時間的なボリュームや音色の変化をエンベロープは再現するために使います。ここで注意すべき点はエンベロープ・ジェネレーターはオーディオ信号そのものを扱うモジュールではなく、オーディオ信号を加工するモジュールに対してモジュレーションをかける「モジュレーター」だということです。つまりADSRなどの信号そのものはCV=コントロール・ボルテージであって、乾電池などから出ている直流電気と性質は同じものになります。

             

もう一度ADSRに話を戻します。A=アタックは鍵盤を押してからの立ち上がりにかかる時間です。エンベロープは鍵盤を押してから必ず決められたMAX値まで電圧を上げようとします。そこに至るまでにかかる時間というわけです。アタックが終わると少し減衰する時間をとります。これがD=ディケイです。サスティンは鍵盤を押し続けている間に持続するレベルを表します。ディケイはMAX値からサスティンで決められたレベルまで指定された時間をかけて落ちていくことでアタックに印象をもたせます。R=リリースは鍵盤から手を離したあと、ゼロに戻って行くまでの時間を表します。ここでお気づきかと思いますが、AとDとRは「時間」を指定するパラメーターですが、Sだけは「レベル」を決めるパラメーターだということです。結果的に「サスティン・タイム」は、鍵盤を押している時間からAとDに費やした時間を引いたものになるというわけです。

             

ではARP Odysseyでよく使われる定番のエンベロープのアサイン方法をご紹介しておきましょう。デフォルトの設定ではVCAにADSRをアサインされていると思います。ARよりもパラメーターが多い分融通が利くからです。しかし多くの場合、エンベロープはフィルターの開閉にも同時に使用されます。そこでVCAにARをアサインし、LPF REQをADSRでモジュレートさせるように設定してみます。ADSRを使ってLPF FREQが閉じさせていくとそれだけで音量も下がります。フィルターに使われるエンベロープはフィルターを閉じさせるためにサスティンは低めの値になってしまうことがしばしばあります。もしVCAにも同じカーブのADSRを使った場合、さらに音量を下げてしまうことになります。そこでサスティンがMAXに固定されているARをVCAに使えばフィルターが閉じていっても音量が下がることは防ぐことができます。このほうがファットな印象が得られるというわけです。

AR / ADSR_2

エンベロープ・ジェネレーターの下にあるスイッチ群はエンベロープ・カーブが生成されるトリガーの動きをコントロールします。

一般的な使い方、つまり鍵盤を押したタイミングと離したタイミングでエンベロープが動作するモードにするにはADSRとARの両方を“KYBD GATE”にしておきます。次にこれを“LFO REPEAT”に切り替えるとエンベロープはLFOの周期に合わせて何度もトリガーされることになります。真ん中のADSRリピートスイッチが“KYBD REPEAT”になっている場合、鍵盤を押している間だけエンベロープがLFOによってトリガーされますが、AUTO REPEATになっている場合は鍵盤が押されていなくてもトリガーされるため、設定によってはステップ・シーケンサーで動かした時のようにずっと音が出る状態になります。