ARP ODYSSEYのパネル・レイアウト
複雑な構成になっているARP ODYSSEYのパネル・レイアウトだが、ここからはオリジナルを知る坪口昌恭がNeat’sにレクチャー。ぜひその音作りの面白さを知って、ARP ODYSSEYの魅力に触れていただきたい。
音作りをする前に準備をする
Neat's:坪口さん、よろしくお願いします!
坪口:早速音を出そうと思うのですが、その前にいくつか注意しておかなくてはならないことがあるので、それを見ていきましょう。音が鳴らなくなってしまったときも、以下のポイントをチェックしてみてください。まずはKYBDスイッチ(3)がONになっているかどうか。これがONになっていないと音を出すことができません。また、VCF FREQ(7)は全部下げてしまうと音が鳴らなくなるので、これはとりあえずMAXに。そして、(27)のスイッチはADSRに合わせ、フェーダーを上げておきましょう。ここが、ARP ODYSSEYのボリュームだと考えて構いません。また、ADSR(13)は、最初はSUSTAINだけMAXにしておくと音作りがしやすいのでそうしておきます。そして、ADSRセクションの3つのスイッチ(28)は全部上に。これが下になっていると音がループして、止まらなくなります。最後に、ほかのフェーダーはすべて下げておきましょう。これで、下準備はOK!
Neat's:それで音が止まらなくなってたのか!私、最初スイッチをオフにしなきゃと思って全部下げちゃったんですが、全然違いましたね(笑)。
波形の切り替えはミキサー・セクションで
坪口:それでは、シンセの基本である、オシレーターを見ていきましょう。まずは、ミキサー・セクションのVCO-1のフェーダー(23)を上げていきます。すると、VCO-1の音が鳴りますね。
Neat's:あれ、音程が……。
坪口:そう、ARP ODYSSEYはチューニングを自分で合わせなくてはならないんです。(2)の2つのフェーダーを大体真ん中に合わせて、チューナーを使ってチューニングをしましょう。音程が合ったら、もう触らないように。
Neat's:できた! 次はどうするんですか?
坪口:では、波形を切り替えてみましょうか。ARP ODYSSEYに搭載されているのはノコギリ波と矩形波の2つで、その切り替えはミキサー・セクションで行います。先ほど上げたフェーダーの下にあるスイッチ(23)がそれですね。矩形波を選ぶと、その音色の調整を(16)のフェーダーで行うことができます。ARP ODYSSEYはこれと同じオシレーターがもう1つあって、ミキサー・セクションの(24)のフェーダーを上げるとVCO-2の音色を混ぜることもできるんです。VCO-2も、オシレーター・セクションでしっかりチューニング(4)してくださいね。合わせなくても面白いですが(笑)。
Neat's:VCO-2の上にあるスイッチ(5)が、VCO-1のとは微妙に違いますよね? これは?
坪口:それはオシレーター・シンク。これをオンにすると、VCO-2を利用してVCO-1の音色を変えることができるんです。その具合は、VCO-2のピッチの変化でコントロールすることができます。VCO-2のチューニングをいじってみると……。
Neat's:なんか不思議な音になりますね。これはなぜこうなるんですか?
坪口:これは、VCO-1にピッチの違うVCO-2の波形を干渉させているんですが……。
Neat's:???
坪口:つまり、VCO-1が“あ~~”って歌を歌っている人だとしたら、VCO-2がその人の喉に噛みついて“あ゛ーーっ!”って言わせる感じです(笑)。
Neat's:なるほど、分かりやすいです(笑)。
坪口:それから、重要なのがノイズですね。(22)のスイッチをNOISEに合わせフェーダーを上げると、ノイズを混ぜることができます。ノイズはホワイト・ノイズとピンク・ノイズの2種類があり、その切り替えは(1)で行うことができます。
Neat's:これはハスキー・ボイスみたいな感じになって、好きですね! でも、連動している機能が離れたところにあって、シールを貼っておかないと、どれがどれか分からなくなりそう。
坪口:確かに、ARP ODYSSEYはすごく構成が変わっているので、注意が必要ですね。
ARP ODYSSEY独特のハイパス・フィルター
坪口:カットオフはフィルター・セクションの(7)にあります。これでハイを削ったり、レゾナンス(8)を上げたりして音色を作っていくわけですね。そして、復刻版ARP ODYSSEYの目玉である、フィルターの切り替えは(9)で。これを切り替えると音のキャラクターが変わります。普通はフィルターの違いのために本体を買い換えるくらいなので、これはすごくポイントが高いですね。僕が持っているモデルはRev2だから、Ⅱにしておこうかな。
Neat's:なんというお得なセット!
坪口:本当だよね(笑)。そして、当時のシンセとしては珍しくハイパス・フィルター(10)があります。フィルターって普通ハイを削るものだけど、このフィルターはローを削る。これを使うと細い音を作れるんです。
Neat's:ベルみたいな音がして、カワイイですね。全然使えそうなのに、なんで珍しい機能なんですか? 勢いがなくなってしまうと思われるから?
坪口:それはあるかもしれないですね。みんな太い音を目指していたので、この時代のシンセにこれが付いているのはなかなかないんですよ。
音量、フィルター、ピッチにかけられるEG
坪口:アンプ(音量)やフィルターの開き具合を、時間で変化させていくのがエンベロープ・ジェネレーター(以下EG)。ARP ODYSSEYのEGセクションは一番右側にあって、アタック、ディケイ、サステイン、リリースのADSR(13)と、アタックとリリースしかないAR(12)というタイプがありますね。アンプにどちらのEGを使うかは(27)で決定できますが、基本的にADSRに合わせておくと良いでしょう。また、フィルターにEGを効かせるには、フィルター・セクションの(26)のフェーダーを上げていけば可能です。ちなみに、EGは元の値から上げることしかできないので、このとき、VCF FREQ(7)が上がっていると変化が起こりません。フィルターにEGをかけるときは、これを下げておきましょう。
Neat's:なるほど~。あ、オシレーター・セクションにもADSRのスイッチ(16)がありますよ!
坪口:そう、ピッチにもEGをかけることができるんです。フィルターとアンプにEGがかかっている状態で、さらにピッチにもかけていくと……。
Neat's:すごい、なんか犬の鳴き声みたいな音ができた(笑)。
伝家の宝刀“サンプル&ホールド”
坪口:フィルター、EGと来たら、次は周期的な時間変化を加えるLFOをみていきましょう。一番基本的な、ピッチを揺らすビブラートをかけてみます。揺らす量は、一番左下のフェーダー(14)で、スピードはLFOセクションの(6)でコントロールするわけですね。LFOの波形の切り替えは、(14)のスイッチで。また、フィルターにLFOをかけたい場合は、(25)で行うことができます。
Neat's:そのフィルターの方には、スイッチのところにS/Hって書いてありますね。これは?
坪口:これぞARP ODYSSEY!という機能で、“サンプル&ホールド”というものなんです。これはランダムに違う周波数を取り出し、ピッチやフィルターの開き具合を変化させるというもの。これをピッチにかけると面白いのでやってみましょう。まず、(19)をNOISE GENに合わせ、フェーダーを全開に。次に、(20)のスイッチをLFO TRIGに合わせる。そうして(15)をS/Hに合わせ、フェーダーを上げていくと……。
Neat's:すごい! なんですかこれは!
坪口:ピッチの違う音が次々とランダムに現れているんですよ。面白いでしょ? スピードはLFOと同じく(6)のフェーダーでコントロールできます。また、(21)のフェーダーを上げると、ポルタメント効果を付けることもできるんです。
Neat's:完全なランダムって、自分の予想を裏切ってくれて、すごく好きです。
坪口:さらに面白いのが(20)のKYBD TRIG。これに切り替えて鍵盤を弾くと……。
Neat's:どこを弾いてもランダムに音が出る!ステージでこれやってみたいです。
坪口:これでコール&レスポンスやってみたり(笑)。鳴らした音のとおりに歌って!って言って。
Neat's:なんてオタクな(笑)。でもアリかも!
坪口:ほかにも強力な音色がありますよ。(17)をS/H MIXER、(18)をノコギリ波に合わせ両方のフェーダーを上げ、(5)のスイッチをオンにし(4)を動かすと、さらに過激なシンクがかかる。実はこのS/H MIXERが、モーグとの出音の差を決定付けているんですね。
過激な音を作れるフィードバック
Neat's:このパッチ・ケーブルは何ですか?
坪口:今回のARP ODYSSEYはパッチ・ケーブルとリアパネルの接続端子を組み合わせて、いろいろな機能を使えるんです。例えば、ヘッドフォン・アウトをオーディオ・インプットにつなぐと……。
Neat's:すごい音!カッコ良いですね! このまま何かの映画で使われてそうな感じがします。
坪口:これがフィードバック。ドライブ・スイッチ(11)をONにすれば、さらに過激な音作りもできちゃいますね。パッチ・ケーブルではほかにも、GATE OUTとTRIG INを接続して、レガート奏法を行うこともできるんです。
Neat's:音作りと合わせて、いろいろ試してみたいですね。今日は坪口さんのおかげでARP ODYSSEYの使い方がすごく良く分かりました。音作り楽しい! ありがとうございました!
坪口:また分からなくなったりしたら、いつでも教えにいきますよ~!
振り返って
Neat's:エレクトーン育ちの私としては、“音を作る”というのが新しい発想で、ARP ODYSSEYはすごく斬新な楽器に感じました。難しそうだからって食わず嫌いせずに、いろいろな音を作ってみたいと思います。
坪口:実は僕、レコーディングですでに使ったんですよ。やっぱりここぞというときにアナログ・シンセを使うと、音に説得力が出ます。ボディが軽いのも良いですし、より身近に感じられるようになりましたね。