ARP

Masayasu Tsuboguchi x Neat's

INTERVIEW: Masayasu Tzboguchi x Neat's

東京ザヴィヌルバッハのキーボーディスト坪口昌恭と、宅録シンガー・ソングライターのNeat’sに復刻版ARP ODYSSEYを試奏してもらい、その魅力について語ってもらった。現代の音楽におけるARP ODYSSEYの可能性を感じてほしい。

撮影:八島崇 
本記事は2015年3月10日発売のキーボード・マガジン 2014年4月号 SPRING(リットーミュージック刊)に掲載されたものです。

坪口昌恭

「僕にとってARP ODYSSEYは、宇宙的なサウンドを持っている楽器」
Profile●1964年福井県生まれ。ジャズ演奏とエレクトロニクスの奏法に精通した希有なバランス感覚を持ち味とする。主宰する東京ザヴィヌルバッハ、NY録音作、モジュラーシンセ作、リミックス作品、ソロ・ピアノ作品など、数々のアルバムを発表。ワークショップTZBOLABOのほか、dCprG、菊地成孔DubSeptetのメンバーとしても活躍中。尚美学園大学音楽表現学科ジャズ&ポップスコース准教授。

Neat's

「本当にいろいろな音を作れるから、たくさんいじって好きな音を探していきたい」
Profile●作詞/作曲/編曲を自ら手掛け、ベッド・ルームから発信する変幻自在のファンタジー。アートワークや作品のディストリビューションも自ら行うDIYな活動も話題になっている。バンド・スタイルでのライブと並行して、“Bedroom Orchestra”と称した、ループ・マシンやサンプラーを駆使する独奏スタイルのライブも精力的に行っている。

坪口昌恭×Neat'sプロフィール

お2人は初対面ということで、まずは自己紹介をお願い致します。


Neat's:私はシンガー・ソングライターとして活動していて、バンド・サウンドのポップスを宅録で作ったりしています。4歳からエレクトーンをやっているので、それと同じ感覚で、1人オーケストラのようなイメージで音楽を作っていますね。

坪口:僕はジャズ畑出身のキーボーディストで、インストゥルメンタル系の音楽を演奏することが多いです。東京ザヴィヌルバッハというバンドでは、コンピューターでリズムを自動変奏させて、その上でクラブ・エレクトロニカ的なジャズを演奏する、という音楽をやってきましたが、最近は人力メンバーで演奏しています。


2人はシンセサイザーを普段どのように使っているのですか?

Neat's:私は好きな音だと思ったら使う、というスタンスなので、あまりシンセそのものについては詳しくないんです。宅録をやっているし、ライブではiPadからドラム・パターンを鳴らしたり、ループ・マシンを演奏したりするので、機材に強い人と思われがちなんですが、実は全然そんなことないアナログ人間なんですよね。

坪口:iPadを使ってドラムを鳴らすんでしょ?それってデジタル人間じゃん(笑)。

Neat's:そ、そうですか?(笑)でも、難しい機械は苦手でシンセもプリセットから選んで好きな音色にいじるという感じなんですよ。

坪口:感覚はアナログということですね。僕は、ジャズも好きだし、YMOも好きだし、という世代だったので、自然とジャズと機材を使う方向に興味がわいていきました。アナログ・シンセを使おうと思ったのは、菊地成孔がリーダーのDCPRGというバンドに参加したとき。メンバーが13人くらいいるので、デジタル・シンセだと音が抜けないんですよね。それでオリジナルARP OdysseyやProphet-5を買ったんです。やっぱりアナログだと全然音が違いますし、弾きがいがありますね。


Neat’sさんは、アナログ・シンセに関してはどんなイメージがありますか?

Neat's:アナログ・シンセは、つい最近サンレコの企画で結成したシンセ・カルテットで使うために初めて触れて。それはコルグΣ(シグマ)だったんですが、Σはタブで音色を選ぶタイプだったので、私にも扱えたんですよね。リーダーのBuffalo Daughterの大野由美子さんに“ディズニーの「エレクトリカル・パレード」ってアナログ・シンセで作られているんだよ”っていうことも教えてもらったりして。それをきっかけに、今すごくアナログ・シンセに興味がわいているんです。坪口さん、オリジナルのARP Odysseyってどんなシンセだったんですか?

坪口:細野晴臣さんやハービー・ハンコックがベースやソロにも使っていますが、ちょっと宇宙的な音がする楽器だと思いますね。それに、効果音的な音をすぐに作れるシンセ、というのが僕のイメージです。普通に演奏するのも良いんだけど、そういう音を作りたくなってしまう。


復刻版ARP ODYSSEYを初めてみたときの第一印象はいかがでしたか?

Neat's:このオレンジと黒っていう色がカワイイですし、パネルに波形の絵が描いてあるのもグッときましたね。あと、スーツ・ケースに入っているのも萌えました! インテリアっぽくも見えるし、見た目がカワイイっていうのは重要ですね。

坪口:持ち運びしやすいので外に持っていきたくなる。僕も見た目でシンセを買う方なんですが、ARP ODYSSEYのデザインは好きですね。


先ほど少し触ってもらいましたが、いかがでしたか?

Neat's:音作りはちょっと難しそうですね。いろいろ触っていたら音が止まらなくなって、どうしたら良いのか分からなくなりました(笑)。

坪口:音が止まらなくなるのは、普通のシンセではあまりないですよね。自由に音作りができるだけに、少し間違うと音が鳴らなくなったりすることもあります。アナログ・シンセは階層がなく、一見強面だけど全部顔に出る単純なヤツ。音作りの仕方を覚えると、大変魅力的な楽器だと感じるはずですよ!






ARP ODYSSEYのパネル・レイアウト

MasayasuTsuboguchi_Neat's

複雑な構成になっているARP ODYSSEYのパネル・レイアウトだが、ここからはオリジナルを知る坪口昌恭がNeat’sにレクチャー。ぜひその音作りの面白さを知って、ARP ODYSSEYの魅力に触れていただきたい。

    

音作りをする前に準備をする

Neat's:坪口さん、よろしくお願いします!

坪口:早速音を出そうと思うのですが、その前にいくつか注意しておかなくてはならないことがあるので、それを見ていきましょう。音が鳴らなくなってしまったときも、以下のポイントをチェックしてみてください。まずはKYBDスイッチ(3)がONになっているかどうか。これがONになっていないと音を出すことができません。また、VCF FREQ(7)は全部下げてしまうと音が鳴らなくなるので、これはとりあえずMAXに。そして、(27)のスイッチはADSRに合わせ、フェーダーを上げておきましょう。ここが、ARP ODYSSEYのボリュームだと考えて構いません。また、ADSR(13)は、最初はSUSTAINだけMAXにしておくと音作りがしやすいのでそうしておきます。そして、ADSRセクションの3つのスイッチ(28)は全部上に。これが下になっていると音がループして、止まらなくなります。最後に、ほかのフェーダーはすべて下げておきましょう。これで、下準備はOK!

Neat's:それで音が止まらなくなってたのか!私、最初スイッチをオフにしなきゃと思って全部下げちゃったんですが、全然違いましたね(笑)。


波形の切り替えはミキサー・セクションで

坪口:それでは、シンセの基本である、オシレーターを見ていきましょう。まずは、ミキサー・セクションのVCO-1のフェーダー(23)を上げていきます。すると、VCO-1の音が鳴りますね。

Neat's:あれ、音程が……。

坪口:そう、ARP ODYSSEYはチューニングを自分で合わせなくてはならないんです。(2)の2つのフェーダーを大体真ん中に合わせて、チューナーを使ってチューニングをしましょう。音程が合ったら、もう触らないように。

Neat's:できた! 次はどうするんですか?

坪口:では、波形を切り替えてみましょうか。ARP ODYSSEYに搭載されているのはノコギリ波と矩形波の2つで、その切り替えはミキサー・セクションで行います。先ほど上げたフェーダーの下にあるスイッチ(23)がそれですね。矩形波を選ぶと、その音色の調整を(16)のフェーダーで行うことができます。ARP ODYSSEYはこれと同じオシレーターがもう1つあって、ミキサー・セクションの(24)のフェーダーを上げるとVCO-2の音色を混ぜることもできるんです。VCO-2も、オシレーター・セクションでしっかりチューニング(4)してくださいね。合わせなくても面白いですが(笑)。

Neat's:VCO-2の上にあるスイッチ(5)が、VCO-1のとは微妙に違いますよね? これは?

坪口:それはオシレーター・シンク。これをオンにすると、VCO-2を利用してVCO-1の音色を変えることができるんです。その具合は、VCO-2のピッチの変化でコントロールすることができます。VCO-2のチューニングをいじってみると……。

Neat's:なんか不思議な音になりますね。これはなぜこうなるんですか?

坪口:これは、VCO-1にピッチの違うVCO-2の波形を干渉させているんですが……。

Neat's:???

坪口:つまり、VCO-1が“あ~~”って歌を歌っている人だとしたら、VCO-2がその人の喉に噛みついて“あ゛ーーっ!”って言わせる感じです(笑)。

Neat's:なるほど、分かりやすいです(笑)。

坪口:それから、重要なのがノイズですね。(22)のスイッチをNOISEに合わせフェーダーを上げると、ノイズを混ぜることができます。ノイズはホワイト・ノイズとピンク・ノイズの2種類があり、その切り替えは(1)で行うことができます。

Neat's:これはハスキー・ボイスみたいな感じになって、好きですね! でも、連動している機能が離れたところにあって、シールを貼っておかないと、どれがどれか分からなくなりそう。

坪口:確かに、ARP ODYSSEYはすごく構成が変わっているので、注意が必要ですね。


ARP ODYSSEY独特のハイパス・フィルター

坪口:カットオフはフィルター・セクションの(7)にあります。これでハイを削ったり、レゾナンス(8)を上げたりして音色を作っていくわけですね。そして、復刻版ARP ODYSSEYの目玉である、フィルターの切り替えは(9)で。これを切り替えると音のキャラクターが変わります。普通はフィルターの違いのために本体を買い換えるくらいなので、これはすごくポイントが高いですね。僕が持っているモデルはRev2だから、Ⅱにしておこうかな。

Neat's:なんというお得なセット!

坪口:本当だよね(笑)。そして、当時のシンセとしては珍しくハイパス・フィルター(10)があります。フィルターって普通ハイを削るものだけど、このフィルターはローを削る。これを使うと細い音を作れるんです。

Neat's:ベルみたいな音がして、カワイイですね。全然使えそうなのに、なんで珍しい機能なんですか? 勢いがなくなってしまうと思われるから?

坪口:それはあるかもしれないですね。みんな太い音を目指していたので、この時代のシンセにこれが付いているのはなかなかないんですよ。


音量、フィルター、ピッチにかけられるEG

坪口:アンプ(音量)やフィルターの開き具合を、時間で変化させていくのがエンベロープ・ジェネレーター(以下EG)。ARP ODYSSEYのEGセクションは一番右側にあって、アタック、ディケイ、サステイン、リリースのADSR(13)と、アタックとリリースしかないAR(12)というタイプがありますね。アンプにどちらのEGを使うかは(27)で決定できますが、基本的にADSRに合わせておくと良いでしょう。また、フィルターにEGを効かせるには、フィルター・セクションの(26)のフェーダーを上げていけば可能です。ちなみに、EGは元の値から上げることしかできないので、このとき、VCF FREQ(7)が上がっていると変化が起こりません。フィルターにEGをかけるときは、これを下げておきましょう。

Neat's:なるほど~。あ、オシレーター・セクションにもADSRのスイッチ(16)がありますよ!

坪口:そう、ピッチにもEGをかけることができるんです。フィルターとアンプにEGがかかっている状態で、さらにピッチにもかけていくと……。

Neat's:すごい、なんか犬の鳴き声みたいな音ができた(笑)。


伝家の宝刀“サンプル&ホールド”

坪口:フィルター、EGと来たら、次は周期的な時間変化を加えるLFOをみていきましょう。一番基本的な、ピッチを揺らすビブラートをかけてみます。揺らす量は、一番左下のフェーダー(14)で、スピードはLFOセクションの(6)でコントロールするわけですね。LFOの波形の切り替えは、(14)のスイッチで。また、フィルターにLFOをかけたい場合は、(25)で行うことができます。

Neat's:そのフィルターの方には、スイッチのところにS/Hって書いてありますね。これは?

坪口:これぞARP ODYSSEY!という機能で、“サンプル&ホールド”というものなんです。これはランダムに違う周波数を取り出し、ピッチやフィルターの開き具合を変化させるというもの。これをピッチにかけると面白いのでやってみましょう。まず、(19)をNOISE GENに合わせ、フェーダーを全開に。次に、(20)のスイッチをLFO TRIGに合わせる。そうして(15)をS/Hに合わせ、フェーダーを上げていくと……。

Neat's:すごい! なんですかこれは!

坪口:ピッチの違う音が次々とランダムに現れているんですよ。面白いでしょ? スピードはLFOと同じく(6)のフェーダーでコントロールできます。また、(21)のフェーダーを上げると、ポルタメント効果を付けることもできるんです。

Neat's:完全なランダムって、自分の予想を裏切ってくれて、すごく好きです。

坪口:さらに面白いのが(20)のKYBD TRIG。これに切り替えて鍵盤を弾くと……。

Neat's:どこを弾いてもランダムに音が出る!ステージでこれやってみたいです。

坪口:これでコール&レスポンスやってみたり(笑)。鳴らした音のとおりに歌って!って言って。

Neat's:なんてオタクな(笑)。でもアリかも!

坪口:ほかにも強力な音色がありますよ。(17)をS/H MIXER、(18)をノコギリ波に合わせ両方のフェーダーを上げ、(5)のスイッチをオンにし(4)を動かすと、さらに過激なシンクがかかる。実はこのS/H MIXERが、モーグとの出音の差を決定付けているんですね。


過激な音を作れるフィードバック

Neat's:このパッチ・ケーブルは何ですか?

坪口:今回のARP ODYSSEYはパッチ・ケーブルとリアパネルの接続端子を組み合わせて、いろいろな機能を使えるんです。例えば、ヘッドフォン・アウトをオーディオ・インプットにつなぐと……。

Neat's:すごい音!カッコ良いですね! このまま何かの映画で使われてそうな感じがします。

坪口:これがフィードバック。ドライブ・スイッチ(11)をONにすれば、さらに過激な音作りもできちゃいますね。パッチ・ケーブルではほかにも、GATE OUTとTRIG INを接続して、レガート奏法を行うこともできるんです。

Neat's:音作りと合わせて、いろいろ試してみたいですね。今日は坪口さんのおかげでARP ODYSSEYの使い方がすごく良く分かりました。音作り楽しい! ありがとうございました!

坪口:また分からなくなったりしたら、いつでも教えにいきますよ~!


振り返って

Neat's:エレクトーン育ちの私としては、“音を作る”というのが新しい発想で、ARP ODYSSEYはすごく斬新な楽器に感じました。難しそうだからって食わず嫌いせずに、いろいろな音を作ってみたいと思います。

坪口:実は僕、レコーディングですでに使ったんですよ。やっぱりここぞというときにアナログ・シンセを使うと、音に説得力が出ます。ボディが軽いのも良いですし、より身近に感じられるようになりましたね。