ARP

David Friend

INTERVIEW: David Friend

2015.06.11

ARP Instruments社の共同創業者であり、今回のARP ODYSSEY復刻のアドバイザーを務めたDavid Friend氏。彼に、ARP Odyssey発売当時のこと、そして今回の復刻について話を伺いました。 インタビューは一部、動画でもご覧頂けます。

       
※字幕をONにしてご覧下さい。

オリジナルARP Odysseyの開発・設計において、あなたはどのような役割を担われたのでしょうか?

David:まずARP Odysseyを作ろうと思ったきっかけは、パッチコードの付いていない、ステージ用のシンセサイザーを作りたかったからです。パッチコードはステージ上では非常に扱いづらいですからね。そこで、私はパネルのレイアウトを工夫しました。紙切れにデザインを走り書きしたのを今でも覚えていますよ。実際に作るにあたって、その最初のデザインから変更したのは、ピッチベンド用のタッチパッドくらいでした。ARP 2600とARP 2500用に開発した回路もたくさん使いましたけどね。

ARP Odysseyが成功した鍵は何だったと思いますか?

David:研究用と演奏用の組み合わせみたいなものとは違って、純粋にステージ用にデザインされた世界初のシンセサイザーだったことだと思います。本当に、演奏家のことだけを考えてデザインしました。操作を覚えるのも簡単、セットするのも簡単、その上、細かいコントロールの変更なしで、すぐに様々なサウンドを作り出せたのです。

なるほど。実際にARP Odysseyを当時使用していたミュージシャンにはどんな方がいらっしゃいましたか?何か印象的なエピソードがあれば教えてください。

David:わかりました。ARP OdysseyはおそらくARPで一番成功したモデルです。レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジはかなり早い時期から使ってくれたミュージシャンの1人ですし、スティーリー・ダンやハービー・ハンコックも多くの作品で採用してくれました。他にも大勢いて、彼らには宣伝にもよく協力してもらいましたし、私自身も、朝の通勤の車の中で彼らの音楽をよく聴いていました。ラジオからARP Odysseyの音が聞こえてこない日は無かったと言ってもいいくらいですよ。そんなわけで、全盛期のARP Odysseyはとても人気のある、非常に重要なモデルだったと言えるでしょう。

なるほど。ARP Odysseyはシンセサイザーの歴史にどのような影響、または変化を与えたと思いますか?

David:ARPのシンセサイザーが初めて発売された1970年当時、ほとんどのシンセサイザーは大学に売られ、前衛的な作曲家に使われていました。そんな中、ザ・フーやビートルズのような有名なロックバンドがARP 2500を買ってくれたのです。その時に新しいアイデアが生まれました。もっと小さくて、安くて、運びやすくて、街の楽器店で販売できるような機種を作れないか、と。ARP Odysseyは、ARP 2500をより小型化したARP 2600からさらに研究用という要素を捨て去った、純然たる演奏家用シンセサイザーで、その意味において最高点に達していたと言えるでしょう。

素晴らしいですね。今回のコルグとの協力のきっかけを教えてください。

David:ある日、何の前触れもなく突然、コルグから電話をもらったのです。ARP Odysseyを復刻させたいという話でした。実はその前から、昔のオリジナル版のARP Odysseyの価格がeBayでぐんぐん上がっていることに気付いていました。多くの人が昔のアナログシンセサイザーをまた使いたいと思っていることは明らかでした。だから、コルグがARP Odysseyの復刻版を作りたい、しかもオリジナル版の回路設計やその他の細部まですべて忠実に再現したいと言ってくれた時は、とても嬉しかったです。工場から直送してくれた完成品の箱を開けたとき、まるであの当時に戻ったような気分でした。

素敵な話ですね。今回のARP ODYSSEYの復刻版の制作にあたって、Davidさんはどんな役割を担われましたか?

David:プロダクト・マネージャーやプロダクト・マネジメントチームと何度も議論を重ねました。ARP Odysseyには最初の発売から2、3年の間に大きく分けて3つのバージョンがあり、その微妙な違いをどうするべきか私にアドバイスを求めてきたからです。例えば最初のバージョンのARP Odysseyは、タッチパッドの代わりにノブが付いていました。この3つのタッチパッドは私のアイデアでした。電子楽器にこういうものを使ったのは初めてだったと思います。それから2年のうちに、ARP Odysseyはすべてタッチパッド式に切り替わりました。これはノブ式のものから大きな進化だったと思います。だからコルグにも、ノブではなくてタッチパッドを採用しようと言ったのです。

オリジナル版から追加された要素はありましたか?

David:シンセサイザーで重要な部分を占めるのがフィルターです。ARP Odysseyではバージョンによってフィルターが異なることを説明したら、コルグは驚くべき提案をしてきました。「3種類全部組み込んでしまいましょう」と。素晴らしいアイデアだと思いました。確かに設計のコストはかさみます。でも、初期のラダーフィルターの音が好きな人もいれば、その2、3年後に出てきた2ポールフィルターのパンチの効いた音が好きという人もいるし、4ポールフィルターの太い低音が好きという人もいる(注:正しくは2ポールフィルター、4ポールラダーフィルター、4ポールフィルターの順)。大丈夫かと思うかも知れませんね。つまり、音が混ざり合ってしまうのではないか、と。でもそうはなりません。スイッチが取り付けられていて、好きなフィルターを選べるようになっているので、それぞれの音をちゃんと楽しむことができます。これはオリジナル版から大きく進化した部分だと思います。

オリジナル版の音が蘇ったのですね。ところで、試作品を受け取ったときの印象はいかがでしたか?

David:最初に気付いたのは、携帯用ケース付きだったことです。当時、携帯用ケースはいつも悩みの種でした。ARPでは、ケースは他の会社に作ってもらっていましたが、ひどいものでした。木目調のビニル素材製でしたが、シンセサイザー本体の2倍も重かったのです。だから今回、ケースに入れた状態で出荷すると聞いて、とても感激しました。手触りも本当に素晴らしいですし、昔よりずっと軽いので、演奏家もきっと喜ぶと思います。 でもそのケースを開けたら、パネルの塗料の質感や色使いも同じくらい素晴らしかった。オリジナル版とまったく同じに見えました。第一印象は最高だったと言っていいでしょう。唯一オリジナル版と違っていたのは、背面にMIDIコネクタが付いていたことです。最初のARP Odysseyが発売されたときには、まだMIDI自体が開発されていませんでしたからね。とにかく、素晴らしいの一言です。

ARPのロゴの由来を教えていただけますか?

David:元々のARPのロゴは、(インタビュー会場背面のARP x KORGロゴパネルを指さして)ここに描かれていますが、私の妻がデザインしたものです。彼女はグラフィックデザイナーなのです。1970年に、会社を立ち上げたばかりの頃に作ったものだと思います。その後、1970年代半ばくらいに、あるコンサルタントから「もっと現代的なデザインのほうが良い」という意見が出て、こちら(Rev3以降)のロゴを楽器に描くようになりましたが、結局、ト音記号をあしらった元々のロゴは企業の顔として使い続けました。

話を開発に戻しますが、音以外の部分で、製造工程や発売に関して、何かアドバイスをされましたか?

David:いえ、特には。昔はケースに問題がありましたが、今ではプラスチック加工技術もはるかに向上しましたからね。コルグは昔と同じようなプラスチックを曲げて作るやり方で表面にデコボコのあるケースを作りましたよね。実際、うまく作れば、それは極めて革新的なデザインのケースだとわかりました。コルグのエンジニアには、我々がかつて経験した苦労を伝えただけです。

コルグ:確かにケースの製造には非常に苦労しました。

David:そうでしょう。

コルグ:実は、KYDEXというアメリカの会社に作ってもらったんです。

David:ああ、そうだったのですか。

コルグ:KYDEXからケースの材料を調達していたのですよね。

David:オリジナル版のことですか。

コルグ:はい。

David:ええ。まったく同じ材料に見えますよね。未だに作っているのには驚きました。

若いミュージシャンや最近のミュージシャンが40年近くも前のシンセサイザーをいまも使っているということについてどのようなお気持ちですか?

David:若いミュージシャンが昔のアナログシンセサイザーを見つけ出したことには本当に驚いています。我々がまだARPを売っていた1979年頃には、すべてがデジタル化の波に飲まれていて、アナログシンセサイザーはすでに消えつつありましたから。でも、初期のフェンダーやギブソンのギターの例を思い浮かべてほしいのですが、やはりデジタルシンセサイザーでは出せない音があるのです。 オリジナル版のARP Odysseyでかつて作り出した音の価値が再発見されたのは興味深いことです。ARPは1980年頃に倒産していますから。だけどこれは単に、古いシンセサイザーがeBayや楽器店でこれまでずっと売り買いされていたということでしょう。今でもビニル盤のレコードが好きな人がいるようにね。そんな中で、オリジナル版の音の方が最新のデジタルシンセサイザーで作る音よりも味わいがあると多くの人が気付きはじめたのでしょう。

復刻版のARP ODYSSEYを使っているところを見たい具体的なミュージシャン、あるいはこういうタイプのミュージシャン、というのはありますか?

David:ARP Odysseyはポリフォニックではありません。今も昔もね。あくまでもメロディー楽器なのです。だから、スタジオで映画のサウンドトラックとか、そういうものを作るのに使われるところを見たいですね。それに私はジャズが好きですから、ジャズミュージシャンにもぜひ使ってもらいたいです。一番使ってくれるのはロックミュージシャンでしょうが、素晴らしいメロディーを奏でられる楽器なので、やっぱりジャズや映画音楽とかで使われるところをもっと見てみたいですね。

わかりました。質問は以上です。最後に、このインタビュー記事を読んでくれたシンセサイザーファンにメッセージをいただけますか。

David:わかりました。1970年にARPでアル・パールマンと働きはじめたときには、ステージ用のシンセサイザーなんてものはありませんでした。70年代に音楽のサウンドに大きな変革をもたらし、それを朝の通勤時の車のラジオなどで聞いてもらえたことを光栄に思います。それから40年経って、ARP Odysseyのような昔の楽器をいまだに使ってもらえていて、開発者としては、紙切れに鉛筆で描いたスケッチから始まったものが、いまだに使ってもらえているだけではなく、また人気を集めていることに心から喜びを覚えます。まるでストラディバリウスになったような気分です。

ありがとうございました。